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作家 松沢直樹のブログ
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諸々の原稿を入稿し、朝一で都内某所へ
打診のあった学校関係者との面談へ

あれこれ悩むが、結局、非常勤講師の依頼を断る。
経済的にも時間的にも生活のリズムになってよろしいと考えていたのだけど、どうもなあ。人様に物を教えられるような人間じゃないしねえ。

それに、文筆で身を立てているとはいえ、ボランティアで時間を割くほどの余裕があるわけじゃないから、時間の消費に見合う報奨じゃないしなあ。

てなことをやんわりとお話してお断りしましたが、暴言だったかしらん? 銭銭言うつもりはないんだけど、今の仕事削るなら、それなりの報酬を交渉していただかないと、干上がっちゃうしね。

昔から、文筆業で身を立てている人は、お金のことを話しちゃいけないといった風潮があるけど、今の時代、それはちょっとどうかと思うんだけど。まあ、条件交渉をご検討いただけるようでしたら、再考してみましょう。

気分を変えて、たまにお邪魔する蕎麦屋へ。
小上がりを陣取って、蕎麦を肴に日本酒を一合

板わさと蕎麦の実の味噌漬け、お新香のつきだし。
焼き鳥、天麩羅の盛り合わせ
締めに、江戸の蕎麦屋では珍しい挽きぐるみ(※)をせいろで

(※蕎麦の殻を除いた実の全ての部分をそば粉に挽いたもの。江戸では、蕎麦の実の芯の部分のみを、粉に挽いた更科・藪(御膳粉とも呼ばれる)を蕎麦に仕立てる店が多い。挽きぐるみは、蕎麦独特の香ばしい風味が楽しめるが、黒っぽい色になるので、昔の江戸ではあまり珍重されなかったらしい)

梅雨空と、まとわりつくような湿気は甚だ不快だが、日本酒の風味が引き立つから不思議だ。

少々甘めだが、こくのある純米酒「諏訪泉」を冷でちびちび舐めながら、つきだしをいただく。あっさり一合飲み干してしまったので、追加。

東京の酒「多満自慢」の山廃純米原酒を傾けながら、締めのそばをすする。
どうやら「当たり」だったらしく、酒米の「五百万石」が熟成した時にだけ生まれる独特の甘い香りがする上物だった。

日本酒はワインと同じくデリケートな酒で、同じ銘柄でも醸造された年の酒米の出来方や、湧き水の採水状態、醸造後の保存状態で、味が全く変わってしまう。

最近の日本酒は、銘柄問わず、風味が良いものが増えた。

一時、日本酒の原料となる「山田錦」や「五百万石」といった代表的な酒米が、新潟・兵庫・福岡などでしか栽培されなくなってしまっていたらしい。
だが、この十年ほどの間に、品種改良や、栽培技術の普及講習が行われ続けてきたようだ。その結果が、昨今の良質な日本酒の増産につながっているのだろう。

その背景に、太平洋戦争を機に、遮断されてしまった日本の歴史や文化に注目する人が増えたこともあるような気がする。

江戸から明治にかけて、国民が外国文化に一斉に目を向けた後、また国内の文化を見直すという動きがあった。
おそらく、今もまた日本は、その時期を歩いているのだろう。

そのたびに、新しい何かを内包しながら、伝統は新しい形で受け継がれていく。日本という国は、本当に不思議な国である。

この日本酒もそうだ。
少なくとも、今、自分が楽しんでいる日本酒は、江戸や明治の時代に作られていたものとは、全く別のものだ。

江戸時代に醸造されていた日本酒は、今よりアルコール度数がかなり低いし、昭和のはじめごろまでは、杉の樽に移し、木の香りを移した日本酒が珍重されていた。

(江戸時代の中ごろまでは、関東では日本酒があまり醸造されておらず、上方(関西)で醸造された日本酒を、舟で江戸に運ぶことが一般的だった。その際に、杉の樽につめられたことの名残だと思われる。

ちなみに、上方から江戸へ出荷することを「下る」と呼んだことから、「売り物にならない」「使い物にならない」「とるに値しない」といったことを「下らない」というようになった)

現在では、心白とよばれる酒米の中心部分を使い、琺瑯製のタンクに入れて醸造することで、米本来の香りとフルーティな風味を引き出した日本酒が珍重されている。

琺瑯製のタンクに入れて醸造する方法を取り入れたのは、新潟の若手酒造技術者の発明だと言われているが、その影には、当時欧州を模範としていた社会風潮の影響があったのは間違いない。

伝統的な手法を残しながらも、今の日本文化は、確実に欧州やアメリカの影響を受けている。しかしながら、その本質は変質していない。
次々と色々なものを飲み込んでは、自分の一部としてしまうこの国は、不思議な国である。

脱線したが、日本酒は不思議な点も多い謎の酒である。

日本酒は、日本人が主食ととしてきた米を原料にしているだけあって、和食との相性もよいが、洋食をはじめとした他国の料理との相性も素晴らしく良い。

ワインも同じ原理で作られるが、日本酒は、醸造の段階で、麹菌と酵母菌を共存させ、でんぷんを糖分に変換しながら、アルコール発酵を行わせる「並行複発酵」という、高度な技術が必要とされる醸造方法を採用している。

ルイ・パスツールが低温殺菌法を発明する100年以上前から、「火入れ」といった方法で、醸造後の酵母菌を殺菌する方法を発見して採用しているが、こういった方法はどこで見つけたのか。

安土桃山時代の火薬や鉄砲の大量生産と同じく、この国の自然科学に関する技術は、不思議な点が多い。

少々の酔いは思考を加速させるが、その後は酩酊に任せるに限る。まあ、小難しいことを考えるのはこれまでに。
そもそも、美味なものをいただきながら、小難しいことを考えるのは野暮というものだろう。

舌の上を通過する繊細な風味を楽しみながら、ほどほどの時間に茶で口をすすぐ。

しめて1700円ナリ。貧乏物書きにしては、贅沢な昼下がりでありますが、ここ数日食事をとっていなかったので、まあ、たまにはよろしいでしょう。

小雨の降る中、街をそぞろ歩く。
体が火照ると思ったら、どうやら微熱があるらしい。
長時間にわたって原稿を書いていると、ストレスからか、熱が出ることが増えた。

キリキリとした時間が、心の襞に積もらせたものを開放させられただけでも、価千金。

財布も軽くなったが、心も軽い。ケセラセラ。こんな日もありでしょう。雨もまた楽し。

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プロフィール
HN:
松沢直樹
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1968/03/03
職業:
著述業
趣味:
冬眠
自己紹介:
沈没寸前のコピーライター ライターです。ヤフーではなぜか「小説家」のカテゴリにHPが登録されてますが、ぢっと手を見る日々が続いております。
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