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作家 松沢直樹のブログ
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彼は1920年に生まれた

彼が生まれた日、両親は新しい家族の誕生を喜んだ。

幼かった姉たちも、初めての弟の誕生を喜んだ。

 

厳格だった父は、彼を厳しく育てた。

でも、姉たちに囲まれて育った彼は

優しい少年に育った。

たくさんの思い出ができた。

 

6歳の春は、

父に隠れて、姉たちと一緒に白い花の種を蒔いた。

 

7歳の夏は、自分と同じ年に生まれた柴犬が死んで、

父に隠れて一晩中泣いた

 

 

8歳の秋は、父と二人だけで栗拾いにでかけた。
いつもは厳しかった父が、とても優しかったのが不思議だった。
 

9歳の冬は、はじめて学校の成績が一番になって、
父からアメリカの絵本を買ってもらった。

 

少年は、絵本の中に飛行機を見た。

少年は、初めて見る飛行機の姿にすっかり魅了された。

少年は、操縦士になる決心をした。

 

父は、飛行機に夢中になる少年を見て、
男の子らしく成長していく息子に目を細めた。

操縦士になりたいという少年の夢は、どんどん膨らんだ。

 

 

「絵本で見た大きな飛行機の操縦士になって、

お父様とお母様を、遠い国へ旅行に連れていきたいんだ」 

 

夢を膨らませ続ける少年に、父は、
操縦士の養成学校の存在を教えた。
 

勉強に励んだ彼は、17歳の春、
乗員養成所の試験に合格した。 

 

超難関と言われていた逓信省航空局の試験にパスした彼は

一人で米子に移り、難解な勉強と訓練に励んだ。

 

卒業して二等航空士の資格を手にしてしばらくした後、
彼は航空会社に職を得た。 

 

横浜の根岸にできたばかりの国際空港が、
彼の職場になった。
 

南太平洋のパラオに飛び立つ最初の日は、

両親と姉たちが見送りにきてくれた。 

 

彼の操縦する飛行機が、乗客を乗せて
初めて空を飛んだ時

彼の両親は、夢をかなえた息子の姿を誇りに思った。

 

半年の操縦経験を積んだ後、
彼は上司の勧めで見合いをし、
結婚した。
 

仕事柄、留守になりがちだったが、
妻は、彼の両親に暖かく迎えられ

毎日がとても幸せだった。

 

結婚して一年経った日、
彼に初めての子供が生まれた。

 

男の子を授かった彼は、かつて自分が
暖かく家族から迎えられたように

生まれたばかりの男の子を抱いて、
心から喜んだ。

 

その翌日、彼は軍から招集されることになった。

 

彼が操縦士の養成施設に入学した年から、
二等操縦士の資格を得た後、

半年の間、軍で飛行訓練を受けることが
義務付けられていた。

 

短期間のうちに技術を高められるし、

予備士官として軍にも籍を置くことで、
別の収入が得られる。

 

結婚した後は、むしろ、会社と軍から
手当てがもらえる選択をしたことを

感謝した。

 

若いのに、世間並み以上の生活を、
妻や息子や両親にさせてあげられることが

彼の誇りでもあった。

 

だが、その選択が、確実に彼の運命を変えていった。

軍での仕事は、今までと何も変わらなかった。

 

ただ、旅客機は輸送機に代わり、
乗客が軍人になり、

土産物や旅行者のトランクが、
米や弾薬に代わっただけだった。

 

彼は、飛びなれた横浜とパラオのルートを
淡々と往復した。

 

戦争に加わっている自覚など全くなかった。

 

だから、飛行ルートの先から向かってくる
戦闘機を見ても

別段気に留めなかった。

 

戦う意思などないのに

応戦する武器など持っていないのに

トンボのように小さな戦闘機は、

雲の切れ間に姿を消して

太陽を背にして

彼の飛行機を追いかけた。

 

決して話し合うことなどできない空の上で

彼は大きな飛行機を巧みに操って

逃げることしかできなかった。

 

彼の操縦技術は卓越したものだった。

 

まるで闘牛士が、興奮した牛の突進を
マントでかわすように

彼の飛行機は、戦闘機の攻撃をかわし、

燃料を浪費させた。

その技術の高さが、戦闘機の操縦者の闘志に
火をつけた。

 

そして、何度かの銃撃の中で、戦闘機が放った弾丸は

操縦席の彼の眉間を貫いた。

 

彼の飛行機は、無言のまま、
青い青い海の上に落ちていった。

 

戦闘機はそれを見届けると

何事もなかったかのように雲の中に消えていった。

 

彼の飛行機がどこに落ちたのかはわからない。

彼の飛行機に誰が乗っていたのかもわからない

彼が何を感じていたのかもわからない。

 

ただはっきりしているのは

小指の先ほどの小さな鉄の弾が

彼の命と未来を奪ったということだ。

 

彼は、家族に愛されて生まれた。

誰よりも優しい少年だった。

 

飛行機にあこがれて空を飛ぶことを夢見た。

 

だが、夢をかなえて、幸福な人生を歩みだした瞬間
彼は小指の先ほどの小さな鉄の弾に
全てを奪われてしまった。
 

彼は、両親にとってこの世でたった一人の息子だった。

彼は、姉たちにとってこの世でたった一人の弟だった。

彼は、妻にとってこの世でたった一人の夫だった。

彼は、生まれてきた子供にとって、たった一人の父親だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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プロフィール
HN:
松沢直樹
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1968/03/03
職業:
著述業
趣味:
冬眠
自己紹介:
沈没寸前のコピーライター ライターです。ヤフーではなぜか「小説家」のカテゴリにHPが登録されてますが、ぢっと手を見る日々が続いております。
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