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作家 松沢直樹のブログ
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ぼくはミケ。
ことしのはるに、うまれたこねこだよ。
パパとママと、きょねんうまれたおにいちゃんと、おねえちゃんたちとくらしてるんだ。
でもね、ぼくはいつもひとりぼっち。

おにいちゃんやおねえちゃんたちは、はしるのがはやい。
でも、ぼくはのろまだから、いつもあそんでもらえない。

おにいちゃんやおねえちゃんたちは、おさかなをつかまえるのがじょうず。
でも、ぼくは、みずたまりのおみずもこわいから、おさかななんてつかまえられない。

「やあい、やあい、のろまでこわがりんぼ」

おにいちゃんやおねえちゃんたちは、いつもそういって、ぼくとあそんでくれない。
パパやママも、のろまでこわがりんぼなぼくが、すきじゃないみたい。

おうちのなかでも、ぼくがいると、いつもみんな、つまらなそうなかおをするんだ。

おともだちもできないから、ぼくはいつもひとりであそぶのがすき。
ぼくはねんどであそぶのがすきなんだ。

ねんどをね、どんなかたちにすることもできるんだよ。
まえあしでね、なんどもねんどをふんで、おおきなかたまりにして、それからいろんなかたちをつくるんだ。

きょうも、おにいちゃんやおねえちゃんにあそんでもらえなくて
ねんどで、だいすきなロバのおじいさんのかたちをつくってあそんでた。
そしたら、ほんとうに、ロバのおじいさんがおさんぽにやってきた。

「やあ、ミケちゃん、こんにちは。なにをしているの?」
「ねんどであそんでるの。ロバのおじいさんをつくったの」

「おやおや、ねこちゃんにしてはめずらしいね。ねこちゃんは、おさかなをつかまえたり、きのぼりをしたりするのが、すきなこがおおいんだが」

ロバのおじいさんは、そういって、しろいまえあしでおひげをなでた。
おじいさんは、ぼくがつくったねんどがきらいなのかな。
せっかくロバのおじいさんのかたちをつくったのに。ぼくはがっかりしちゃった。

「でも、ずいぶんじょうずだね」
「ほんと?」
「うん、おひげのところがそっくりだ。おじいさん、とてもうれしいよ。ミケちゃん、ありがとう」

「ほんと? ほんと? ばんざあい」
「おやおや、ミケちゃん、いったいどうしたんだい?」

 ぼくは、ほめてもらえたのがうれしくて、ロバのおじいさんに、おにいちゃんやおねえちゃんに、あそんでもらえないことをはなした。かけっこや、おさかなをつかまえるのがすきじゃないこともはなした。

ねんどであそぶのだけが、とくいだっていうこともはなした。

「そうかそうか。ねこだから、かけっこやおさかなとりがじょうずじゃなきゃいけないなんてきまりはない。ミケちゃんは、ねんどあそびが、だいすきなままでいいんだよ。おにいちゃんやおねえちゃんから、あそんでもらえないからって、がっかりすることはない。

よくかんがえてごらん。おにいちゃんやおねえちゃんは、ミケちゃんみたいに、ねんどをじょうずにこねることはできないだろう?」

「うん、でもね……ほんとうは、おにいちゃんやおねえちゃんとなかよしになりたいんだ。おさかなとりや、かけっこがじょうずになったら、ぼくのことをすきになってくれるかなあ」

「いいことがある。ねんどのかわりにパンをこねなさい」
「パンをつくるの?」

「そうさ。おじいさんがつくりかたをおしえてあげよう。ただのパンじゃないぞ。ねんどでじょうずにかたちをつくったみたいに、パパやママや、おねえちゃんやおにいちゃんのかたちをしたパンをつくるんだ。そしたら、きっとなかよしになってくれるよ」

「ほんとう?」
「ほんとうさ、じゃあ、おじいさんがつくりかたをおしえてあげよう。おじいさんのおうちにいらっしゃい」

それから、ぼくは、ロバのおじいさんのせなかにのって、おうちにいった。そしておじいさんからパンのつくりかたをおそわった。

さいしょはむずかしかったけど、すぐにじょうずになった。ねんどをこねるみたいに、パパやママや、おにいちゃんやおねえちゃんのかたちをじょうずにつくった。

「おやおやずいぶんじょうずにできたね。じゃあ、やいてみようか」

ロバのおじいさんにてつだってもらって、ぱんをかまどのなかにいれたら、すごくいいにおいがしてきた。
「さあ、もういいはずだぞ」

ロバのおじいさんがそういって、かまどのなかからパンをだしてくれた。
だいせいこうだった。パパ、ママ、おにいちゃんやおねえちゃんにみんなそっくりだった。

「これはすごくじょうずにできたねえ」
「パパやママやおにいちゃんやおねえちゃん、よろこんでくれるかな? なかよくしてくれるかな?」

パンはじょうずにやけたけど、ぼくはしんぱいだった。だってまだ、いちどもあそんでもらったことがないんだもん。

「だいじょうぶ。ぜったいによろこんでくれるよ。さあ、おそくなったから、おうちにつれていってあげようね」

ロバのおじいさんのせなかのうえにのって、おうちまでつれてきてもらった。
だけど、パパやママにあう、ゆうきがなかなかでなかった。

「だいじょうぶ。このパンさえあれば、パパもママも、おにいちゃんもおねえちゃんも、みんなよろこんでくれるよ。げんきをだして」

おじいさんにいわれて、ぼくはおうちのなかにはいった。

「ミケ、どこにいってたの、こんなにおそくまで」
ママにしかられた。やっぱりみんなとなかよくしてもらえないのかな。

「だいじょうぶ。ゆうきをだして」
でも、そのとき、ロバのおじいさんがいってくれたことをおもいだしたんだ。だから、ゆうきをだして、ママにいってみた。

「あのね、パパとママと、おにいちゃんたちと、おねえちゃんたちにプレゼントがあるの。つくるのにじかんがかかったから、おそくなったの」

ぼくはそういって、パンをひとつずつテーブルのうえにおいた。パパのかお、ママのかお、とらぶちのおにいちゃん、さばとらのおにいちゃん、ちゃとらのおねえちゃん、みんなのかおのかたちをしたパンを一つずつおいた。

「わあ」

みんながそういった。おこられるのかな。そうおもってつい、めをとじちゃった。でもおこられたりしなかった。

「すごいねえ、ミケちゃん。ありがとう」

パパもママも、おねえちゃんもおにいちゃんもはしってきて、みんな、ほっぺにすりすりしてくれた。うれしくてなみだがでちゃった。

「なんだか、たべるのがもったいないね」

パパがそういってくれた。なんだかげんきになったから、もっとゆうきをふりしぼって、パパとおはなしした。

「パパ、あのね、ぼくね、おおきくなったら、パンやさんになりたい。おにいちゃんやおねえちゃんたちみたいに、かけっこやおさかなとりは、いくらがんばってもうまくならないし、すきじゃない。でもパンなら、すごくじょうずなものをつくれるよ。パパはおさかながとれるようになれっていってくれたけど、ぼくはパンがつくれるようになりたい」

そういうと、パパもママもすこしこまったかおをした。でも、すぐにいいよっていってくれた。おにいちゃんもおねえちゃんも、ほめてくれた。ぼくは、はじめてみんなからほめてもらえて、すごくうれしくなった。

「じゃあ、ばんごはんは、ミケがつくったパンをごちそうになろうかな」

パパがそういうと、ママもおにいちゃんやおねえちゃんも、さんせいしてくれた。

みんなでなかよくテーブルにすわって、パンを食べた。

「おいし~い」

「おにいちゃんたちがとってきてくれた、おさかなといっしょにたべるともっとおいしいね」

ぼくがそういうと、おにいちゃんたちがわらった。
そのひ、ぼくは、はじめて、おにいちゃんやおねえちゃんたちと、まるくなっていっしょにねた。すごくすごくしあわせだった。

それから、ぼくは、まいにちおにいちゃんやおねえちゃんとあそんでもらえるようになった。パパもママも、おさかなとりやかけっこがじょうずになれっていわなくなった。

それどころか、ぼくがつくったパンをおいしいっていってたべてくれるんだ。すごくたのしいよ。

さいきんはね、おにいちゃんやおねえちゃんのぶんだけじゃなくて、もりのみんなのぶんもパンをやくんだよ。

ぼくは、もりのパンやさんになるんだ。

まいあさパンをやくと、りすさん、くまさん、うさぎさん、そしてみんなが、おいしいっていってパンをたべてくれるんだ。おともだちもたくさんできて、とてもしあわせだよ。
こなだらけになって、まっしろになっちゃうのが、ちょっとこまるけどね。

おにいちゃんたちみたいに、かけっこやおさかなとりは、へたっぴいのままかもしれないけど、ぜんぜんへっちゃら。

ぼくは、せかいでいちばんパンをつくるのがじょうずなねこになるんだ。

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「なるほど、そなたの貧しき者への祈り、まことのものと見極めた」

その時です。さっきの歌声よりも美しい声が響いたかと思うと みすぼらしい姿をした吟遊詩人は、白い羽と光り輝く衣をまとった大天使に姿を変えました。

「王よ。預言の通りそなたの願いを叶えてやろう。貧しき民を救うために、この竪琴を受け取るがよい」

松沢直樹 著「王様と金貨」より--

copyright 2006 Naoki Matsuzawa  Saori Takayama

 

初稿を書いてもう1年近く経つのですが、ネットでも公開していた「王様と金貨」という童話が絵本になります。

イラストレーターの「たかやまさおり」さんに,挿画をてがけていただいてのフルカラー版

既に、英語・仏語圏で翻訳されてたり、点字に翻訳していただいて、多くの方に読んでいただいている作品ですが、絵本の形になるのは初めてなので楽しみです。

諸々の仕事の中、めっちゃきつい状態ですが、製作してて楽しいですね。

今回、500部のプレミアム製作ですが、マス販売の作品では実現できない、文字通りプレミアムな作品にしようと思っています。

ありがたくも、早くも予約とかお問い合わせをいただいていますが、詳しいスケジュールが決まりましたら、またお知らせさせていただきますね。

そうそう、この作品の挿画を手がけていただいた「たかやまさおり」さんの個展で、この作品の原画の一部をご覧いただける予定だそうです。

文字通り、お出かけいただいた方だけの、発売前のプレミアムになりますので、ぜひおでかけくださいね。
その他にも素敵な作品の展示や、イベントもあるそうですので、ぜひぜひ。

 

◆奇妙礼太郎 たかやまさおり ふたりイラスト展「寄りミチ」
11/16(木)~11/30(木)
くわしくはこちらを
http://www.mona-records.com/News/menu-frameset.html

mona records
〒155-0031
東京都世田谷区北沢2-13-5
伊奈ビル2F
TEL: 03-5787-3326
FAX: 03-5787-3327
info@mona-records.com

営業時間
毎日(金・土曜除く)12:00~24:00
金・土曜日12:00~26:00
(イベントのある金・土は翌5:00まで)
LUNCH TIME 12:00-16:00
LIVE TIME   18:30-21:30
CAFE&DINNER TIME 21:30-24:00
(金・土曜日は26:00までの営業となります。)
内容によってタイムテーブルが変わります。
またライブ時間中は展示のみをご覧いただくことができませんので
Live Infomationをご確認ください。 

ぜひ、おでかけなさってみてくださいね。

絵本については、逐次製作状況をお知らせしてまいります。

このブログってパソコンからも見られるからさ
なんなんだけど、携帯サイトのコンテンツを更新しました。

時代物というか童話というか短編の「諸芸の井戸」という作品を載せたです。
よかったらごらんくださいね。
http://homepage2.nifty.com/epsilon-cafe/i/shogei/1.html

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パソコンからでも読めますけど、ちょっと読みづらいかも

携帯から読むことをお勧めしますです。

学校から帰ってきたら、母さんからよばれた。
階段をかけあがって、自分の部屋に入った時だった。
「さとし、リビングにおりてきなさい」

おっかない声だった。
ひょっとして、算数のテストをかくしてたのが
ばれちゃったのかな。

つくえのひきだしのおくにしまっておいたのに、
なんでばれたんだろ。
この前のテストは20点だったから、さいあくだ。

ぼくは、ランドセルをおいて、階段をおりた。
「どうしたの? 母さん」

おこられるのかな。でも、なんだか母さんのようすがへんだ。なきそうな顔をしてだまったままだ。
「どうしたの? 母さん、なんかへんだよ」

ぼくがそう言っても、母さんはソファに
すわったままだった。
父さんも、おじいちゃんも、ソファにすわったまま、
すごくこまった顔をしている。

そのうち、父さんが立ち上がった。
ぼくのところへやってくると、少ししゃがんで、
ぼくの目をまっすぐ見た。

そして、両手でぼくのかたをぎゅっとつかんだ。
「さとし、よく聞いてくれ。キキが死んでしまった」

父さんがそう言うと、母さんはなきだしてしまった。
「キキに会っておいで」

ぼくは、父さんにつれられて、リビングのすみまでそっと歩いた。
しゃがみこんで、キキのベットをのぞきこんでみた。

キキはねぼすけな黒ねこだ。この時間はいつもベットの中でぐうぐうねてる。

キキはいつものように丸くなって、わらった顔をしたまま
ねてた。

「キキ、ねてるだけだよ。いつもこうだもん」
「そうじゃないんだ」

父さんはそう言うと、ぼくのとなりにしゃがみこんで、
キキの体をなでた。

キキは、父さんになでられても、そのままだった。

いつもは、父さんになでられると、
とてもめいわくそうな顔をする。

そして、少しだけ目をあけて、うーんってせのびをする。

でも、父さんになでられても、わらったみたいな顔をして、
少しも動かなかった。

「お前もなでてあげてごらん」

父さんにそう言われて、ぼくもキキをなでてみた。
やっぱりせのびはしなかった。
わらった顔をして、ねたままだった。

なんどもなでてみたけど、やっぱりせのびはしてくれなかった。それでもぼくは、キキの体をなでつづけた。

「さとし、さみしいけど、キキは死んでしまったんだ」
父さんはそういうと、キキをなでているぼくの手を
そっとはなした。

「キキ、死んじゃったの?」
「ああ」

父さんも、少しだけなきそうな顔になってた。

「どれだけ死んだら、キキとまた遊べるの? 
死んでも、ふっかつのじゅもんをとなえたら
また遊べるようになるんでしょ。

父さんに買ってもらったテレビゲームのソフトだって、
何回死んでも、まほう使いがじゅもんをとなえたら、
生きかえるもん。

ぼくといっしょに戦ってる戦士もね、キキっていうんだ。
今まで3回生きかえってるよ」
「さとし、あのな……」

母さんが、わんわんなきだす声が聞こえた。

「キキは生きかえったりしないんだ。
テレビゲームみたいに、まほう使いが
生き返らせたりすることはできないんだ。

すごくすごくさみしいけど、今日でキキと
遊ぶことはできなくなったんだよ」

うそだよ。きのうの夜も、おねえちゃんと三人で、
ねこじゃらしであそんだもん。

スーパーボールで追いかけっこして遊んだもん。
おやつだっていっしょに食べたもん。
おねえちゃんといっしょに、うんちの世話もしたもん。

今日だって、ぼくが、ばんごはんをあげる当番だったから、
学校から急いで帰ってきたんだ。

ぼくは、父さんの手をはらいのけて、
キキの体を強くなでた。

ねえ、キキ、早く起きて
いっしょにあそぼうよ。
でも、キキはわらったような顔をしたままだった

そうだ。だいすきなチキンのジャーキーを
今日はとくべつにあげるよ。

ほら、起きてあそぼうよ。
でも、キキはわらったような顔をして、ねたままだった。
なんど体をゆすっても、
キキはわらった顔をしてねむったままだった。

「さとし、もうそっとしてあげよう。
キキは死んでしまったんだ」

父さんにそう言われて、
ぼくは、キキの体をゆするのをやめた。

 

おねえちゃんが中学校から帰ってきた後、
ばんごはんの前に、みんなでキキのおそうしきを
することになった。

おねえちゃんは、なかなかった。
母さんだって父さんだって、
おじいちゃんだってないたのに、
なんでおねえちゃんは、なかなかいんだろう。

キキが死んでも悲しくないのかな。

今日で、キキといっしょに、遊べなくなったのに。
いつもはとてもやさしいおねえちゃんが、
とてもざんこくに見えた。

父さんが庭のさくらの木の下に、
キキのおはかを作ってあげようって言い出した。

キキは、子ねこのころから、
庭のさくらの木に登って遊ぶのが
だいすきだったからだ。

母さんも、おじいちゃんもさんせいしてくれた。
ぼくもそれがいいと思った。
でも、すごくさみしくてたまらなくなった。

キキは本当に死んじゃったんだ。

まほうつかいでも、本当にキキを
生き返らせたりできないのかな。

一度だけでいいから、おねがいを
かなえてくれないかな。

みんなが、キキのおそうしきのじゅんびを
しているあいだ、ぼくは、
まほうつかいが来てくれないかと思って、
ずっと空を見ていた。

でも、父さんの言うとおり、
まほうつかいはやってきてくれなかった。

父さんが、物置に残っていた板で、
大きなはこを作ってくれた。

「これでいいかな。しっかり作ったから、
すごくがんじょうだぞ」

父さんは、そう言ってわらった。
でも、すごくさみしそうだった。

「せっかくだから、キキのすきだったものを
いれてあげようかしら。
母さんは、これをいれてあげようと思うけど、
いいかしら? キキ、さむがりだったから」

 母さんはそういうと、マフラーとパッチワークを、
大きな箱の中にしいた。

二つとも、母さんが夏の間かかって作り上げたやつだ。
パッチワークは、今度の展覧会に出す予定だって言ってた。
とても大事にしてるって言ってた。

母さんもキキが死んじゃって、すごくさみしいんだ。
ぼくはなみだが出そうになった。

「わしは、これをキキにあげようかな」

おじいちゃんは、白いきくの花をたばにして、
大きなはこの中に入れてくれた。
大きなはこの中が、きくの花でいっぱいになった。

おじいちゃんが、ずっとだいじに育てていて、
もうすぐさくやつばかりだった。

とてもきれいだから、ぼくとおねえちゃんが
さわろうとしたら、すごくおこられたことがある。

「おじいちゃん、いいの? だいじなきくの花を
切っちゃって」

「残念だけど、いいんだよ。また来年さくのを
まてばいいさ」
そう言うと、おじいちゃんはさみしそうにわらった。

「じゃあ、キキをつれてくるね」

おねえちゃんは、そういうと、おうちの中にもどった。
しばらくして、キキをかかえて庭にもどってきた。

おねえちゃんにだっこされたキキは、
やっぱりねてるみたいだった。
少しだけせなかを丸くして、わらった顔をしてる。

でも、いつもみたいに、
おねえちゃんのかたによじのぼったり、
あくびをしたりはしなかった。

キキは、本当に死んじゃったんだ。

おねえちゃんは、父さんが作ってくれた
大きなはこの中に、キキをそっとねかせた。

リビングのベットでねてる時といっしょだった。
やっぱりキキが死んじゃったなんて、うそだよ。

ねてるだけじゃないか。キキは死んでなんかいないよ。
キキは死なない。
そう思ったら、なみだがあふれてとまらなくなった。

「さとし、キキとさよならしなきゃ。
プレゼントしたいものがあったら、早くキキにあげて」

おねえちゃんは、ぜんぜんないてなんかいなかった。

「いやだよ……」

がまんしてもがまんしても、なみだがあふれてきて
止まらなかった。
ぼくは、両手を強くにぎって、
なみだがあふれるのをがまんした。

「さとし、わがままいわないで」

おねえちゃんはそう言うと、右手にもっていた
スーパーボールを、とりあげた。
キキが大すきだったやつだ。

おねえちゃんは、スーパーボールを、
箱の中でねているキキのそばにおいた。

「じゃあ、さよならだね」
そう言うと、おねえちゃんは、キキがねている
大きなはこに、ふたをしようとした。

ぼくはたまらなくなって、大きな声でさけんだ。

「おねえちゃんは、ざんこくだ。
キキが死んでもさみしくないの? 

父さんも母さんも、おじいちゃんもないてるのに、
おねえちゃんはどうしてそんなにつめたいの?」

「さとし、いいかげんにしろ」
父さんにぶたれた。右のほっぺたが熱くなってきて、
よけいに悲しくなった。

「おねえちゃんも父さんも大きらいだ。
母さんも、おじいちゃんも、みんなざんこくだ」

ぼくは、庭を出て、おうちの外へむかって走った。
ゆうやけの色がなみだでぼやけて見えた。

気がついたら、ぼくは、川の土手にいた。
なみだがようやく止まって、
あたりのけしきがはっきり見えるようになったら、
ゆうやけが少しだけ、きれいに見えた。

土手のむこうに、お日さまがしずんでいく。

ぼくは、土手にすわって、ぼんやりとしずんでいく
お日さまをながめていた。

「おねえちゃんに、ひどいことを言っちゃったな」

本当は、おねえちゃんも、キキが死んで
さみしかったんだと思う。

でも、どうしておねえちゃんはなかなかったんだろう。
父さんも母さんも、おじいちゃんもないてたのに。

おうちに帰りたかった。
でも、どうしていいのかわからなかった。

ぼんやりしているうちに、お日さまは、
どんどんしずんでいく。
そのうち、あたりが、だんだんくらくなってきた。

「どうしよう……おうちに帰りたいけど」
そう思ってた時だった。

「やっぱり、ここにおったのか」
おじいちゃんの声だった。

「おじいちゃん。どうして?」

「なんで、ここにいるのか分かったかって? 
それはないしょだ。となりにすわってもいいか?」
「うん」

ぼくがそう言うと、おじいちゃんは、
ぼくのとなりにすわった。

おじいちゃんは、ポケットからたばこを取り出して、
火をつけた。

「母さんが、たばこすっちゃだめだって言ってたよ。
体によくないからって」
「はっはっは、そうだったそうだった」

おじいちゃんは、そう言うとたばこの火を消して、
ポケットのはいざらにしまった。

「それよりも教えてよ。どうしてぼくが
ここにいるのが分かったの?」

「おねえちゃんから聞いたのさ。
ここでキキをひろったんだってな」

そうだった。自分でもわすれてた。

ここで、おねえちゃんといっしょに、
まだ子ねこだったキキをひろったんだった。

「おねえちゃんが、たぶんここにいるだろうって言ってた。
みんなまってるぞ。おうちに帰らないか?」

 おじいちゃんは、そう言うと、
ぼくの頭をなでてくれた。

「おねえちゃん、おこってないかな」

「おこってたら、さとしが、ここにいることなんて
教えてくれないさ。すごく心配してたぞ」
「そうなの?」
「ああ」

おじいちゃんは、そう言うと、
もう一度たばこを取り出して、火をつけた。
ほんの少しだけあたりが明るくなった。

「おじいちゃん、聞いてもいい?」
「なにかな?」

「おねえちゃん、どうしてなかなかったんだろう? 
あんなにキキをかわいがってたのに。
さみしくないのかな。悲しくないのかな」

 ぼくは、足もとに落ちてる小石をひろってなげた。
くらくなった川に、小石が落ちる音がした。

「さみしいし、悲しいにきまってるさ。

たぶん、さとしと同じくらいにね。
おぼえとるか? お前がおねえちゃんといっしょに、
キキをおうちにつれてきた日のことを」

 キキを、この土手でひろって、
おうちにつれて帰った日のことを思い出した。
母さんは、動物をかうのはいやだっていつもいってた。
だから、きっとキキは、おうちにおいてもらえない。

おねえちゃんは、制服のうちがわにキキをかくして、
おうちにつれて帰った。

母さんがそれを見つけて、けんかになった。
でも、おねえちゃんは、母さんと父さんに、
なんどもなんども、キキの世話を
ぼくといっしょにするってやくそくして、
キキをおいてもらえることになったんだ。

キキが、おうちにおいてもらえるようになったのは、
おねえちゃんのおかげだった。

「さすがの母さんも、おねえちゃんには
勝てなかったなあ。さとしもえらかった。

おねえちゃんと交代で、一日も休まないで、
キキの世話をしたもんなあ」

「だから、すごくさみしいんだ。
はずかしいけど、なみだがいっぱい出た」

ぼくは、ないたのが急にはずかしくなって、
足元の小石をもう一度川へ向かってなげた。

「さとし、悲しくてなくのは、はずかしいことじゃない。
じいちゃんだって、母さんだって、父さんだって、
悲しくてないたじゃないか」

「おねえちゃんは、どうしてなかなかったの? 
ぼくより強いから?」
「それはわからないなあ」

おじいちゃんは、そう言うと、もう一度たばこをすった。
ほたるみたいな赤い光が、ぼくのとなりで光った。

「でもな、おねえちゃんは、前にすごく
ないたことがあるぞ。わんわん声をあげてないた」
「ほんと? いついつ?」

「おばあちゃんが死んだ時だよ」

「おばあちゃん?」

「ああ、そうか、さとしはおぼえてないだろうな。
さとしがまだ赤ちゃんだったころ、
うちはね、おばあちゃんがいっしょに住んでたんだ。

おぶつだんに、しゃしんがかざってあるだろ? 
あれが、さとしのおばあちゃんだ。
そのおばあちゃんが死んだ時、
おねえちゃんはないたよ。わんわんないた」

「おじいちゃんは?」

「そりゃないたさ。父さんも母さんも、
おじいちゃんもないた。すごくすごく悲しかったよ」

そう言うと、おじいちゃんは、またたばこをすった。

「でもね、おねえちゃんはえらかった。
いつまでもないてたら、おばあちゃんがさみしがるって
いってね、おそうしきが終わった次の日からは、
なかなかったよ。

おじいちゃんも父さんも母さんもすごくおどろいたなあ。
きっとキキが死んで、おねえちゃんは、
さとしと同じくらい悲しいんじゃないかな。

でも、ないたら、キキがさみしがると思って、
なくのをがまんしてるんじゃないかな」

「どうしてがまんできるんだろう? 
もうキキとあそべなくなったのに。
死んじゃうってそういうことなんでしょう。

父さんも言ってたよ。テレビゲームのソフトみたいに、
まほうつかいが生きかえらせたりできないって。
もう二度とあそべないんだって」

「そうだな、たしかにキキと遊ぶことはできなくなったね。
でもね、さとし、お前はキキがいなくなってしまったと
思うかい?」

「キキが?」

「ああ、さとしはどう思う? キキともう、
あそべなくなってしまったけど、
キキは本当にいなくなってしまったと思うかい?」

「よくわからないよ。でも……
なんだかよくわからないけど、
キキとまたあそべる日がやってくるような気がする」

「そうか、そうか」

そう言うと、おじいちゃんは、
ぼくの頭をなでてくれた。

「キキと、あそんだりすることはできなくなった。
でも、また会えるような気がするだろう? 

それはね、キキがお前の心の中に
いてくれるからなんだ。

お前がキキのことを忘れたりしなければ、
キキはずっとお前のそばにいてくれる。
おじいちゃんはそう思うよ」

「わすれたりなんかしないよ。

ずっと。これから大きくなって、
父さんみたいにおとなになっても、
おじいちゃんになっても、キキのことはわすれない」

「そうだな。でもね、これからさとしが大きくなると、
もっともっといろんなわすれられない大事なことが、
たくさんたくさんふえてくる。

そうすると、キキのことを、わすれてしまいそうに
なってしまう。

それが本当にキキが死んでしまうことだと思うんだ。
もし、お前がキキのことをわすれてしまったら、
いっしょにあそべなくなっただけじゃなくて、
どこにもいられなくなってしまうだろ。

そうならないように……キキがいつまでも、
お前の心の中にいてくれるようにしないか」

「おそうしきをするってこと?」

「ああ、やっぱりさみしいけどね。ないてもいいさ。
なみだも流してもいい。
その分きっと、キキはお前の心の中に
いつまでもいてくれると思うよ」

「そうだね。それに、おねえちゃんにもあやまりたい」
「よし、じゃあ、おうちに帰ろうか」
「うん」

「すっかり、まっくらになったな。
母さんにおこられるかもしらんな」

 おじいちゃんは、そう言ってぼくの手をひっぱると、
土手をおりた。

「ねえ、おじいちゃん?」
「なんだい?」
「おばあちゃんのことおぼえてる?」

「どしたい? やぶからぼうに」

「だって、さっき言ってたじゃない。
死んじゃっても悲しんだぶん、ずっと心の中に
キキがいてくれるようになるって。
おじいちゃんの心の中には、おばあちゃんがいるの?」

「ああ、いるよ。
おばあちゃんは死んでしまったけど、
おじいちゃんの心の中には、
今もおばあちゃんが生きている。

こうやって目をとじると、いつでも会えるよ。
おばあちゃんが生きている時のわらった顔まで、
はっきり思い出せるぞ」

「ぼくも、キキのこと思いだせるよ。
スーパーボールを投げてあげるとね、
よろこんでジャンプして飛びつくんだ」
「そうか、そうか」

おじいちゃんは、ぼくの頭をなでてくれた。

「キキは、ずっとお前の心の中にいてくれるよ。
それからな、一つだけ、
おじいちゃんからお願いがあるんだ」
「なあに?」

 ぼくが、見上げると、おじいちゃんは
少し悲しそうな顔をしてた。

「おばあちゃんが死んじゃった話をしただろう? 
そして今日、キキが死んだ。

残念だけど、おじいちゃんも、いつかキキのように、
死んでしまう日がやってくる」
「やだよ、そんなの」

 ぼくがそう言うと、おじいちゃんはわらった。

「もちろん、今すぐにじゃないさ。
じいちゃんは、まだまだ元気で生きるつもりだからな。

でもね、必ず、キキみたいに、死んでしまう日が
やってくる。

そうだなあ……たぶん、さとしがおとなになるころに、
そうなるんじゃないかな。

もしそうなったら、キキと同じように、
さとしの心の中に、おじいちゃんをおいてくれないかな
おじいちゃん、死んじゃっても、
さとしとずっといっしょにいたいんだ」

「その時はないてもいい?」

「ああ、ないてもいいさ。男の子だって、
悲しい時はうんとないてかまわない。

その代わり、キキといっしょに、さとしの心の中に、
いつまでも、おじいちゃんを、
おいてくれるとうれしいな」

「うん、悲しいけど、やくそくするよ」

「ありがとう。キキは死んでしまったけど、
いなくなったわけじゃない。
さとしの心の中にずっといてくれるよ」

「ありがとう、おじいちゃん」

ほんの少しだけ、さみしくなくなった。
おじいちゃんのいうように、
もうあそんだりできないけど、
キキは、ぼくとずっといっしょにいてくれると思う。

「おねえちゃん」
「さとし、帰ってきたの?」

おじいちゃんといっしょに、おうちの門をくぐったら、
おねえちゃんは、ひとりで庭にいた。
キキがねている大きなはこは、そのままだった。

「キキ、そのままにしておいてくれたの?」

「うん、さとしにもきちんと、
さよならしてほしかったから」

 おねえちゃんといっしょに、しゃがんで
大きなはこの中を見た。

おじいちゃんの白いきくの花と、
母さんのマフラーにくるまれて、
キキはねてるみたいだった。

あいかわらず、キキはわらった顔をしてた。

「キキ、死んじゃったんだね」
「うん」

 おねえちゃんが、キキの顔をそっとなでた。

「ごめんね、おねえちゃん……
 さっきはひどいことを言って」
「いいのよ」

 おねえちゃんは、ぼくの方をむかずに、
キキの顔をなでていた。

「おじいちゃんから聞いたよ。
なんでおねえちゃんがなかないか」
「おじいちゃん、なんていってた?」

 おねえちゃんは、キキをなでるのをやめて、
ぼくの顔を見た。

「ごめんね、本当は、ぼくとおなじくらい
悲しかったんだね。
でも、ないたら、キキが悲しむと思って、
なくのをがまんしたんでしょ?」

 おねえちゃんは、たちまちくしゃくしゃな顔になった。
今にもなきそうだった。

「おじいちゃんが言ってたよ。
悲しい時は、いっぱいいっぱい、ないていいんだって。
そしたら、キキのことを
わすれなくなるんだって」

 ぼくがそういうと、おねえちゃんは
声をあげてなきだした。

ぼくも悲しくなってないた。
ぼくと、おねえちゃんのなみだが、たくさんこぼれて、
キキの顔に落ちた。

キキは、わらったまま、
ないてるみたいな顔になった。

それから、もういちど、みんなで
キキのおそうしきをした。

ぼくは、土手でとってきた、
ねこじゃらしをいれてあげた。

おねえちゃんと半分ずつ、たくさんたくさん、
大きなはこの中にいれてあげた。

おじいちゃんの、白いきくの花に、
ねこじゃらしがまざって、
キキは花たばにかこまれているみたいだった。

それから、父さんとおじいちゃんが、
キキのねてる大きなはこを、
さくらの木の下にはこんでくれた。

「じゃあ、さよならになるな」

キキがねてる大きなはこを、
さくらの木の下にうめる時に、父さんが言った。

さよならじゃないよ。

キキはぼくの心の中にずっといてくれるんだ。
おねえちゃんも同じ気持ちみたいだった。
少しだけ目が赤かったけど、もうないてなかった。

キキは死なない。
もうあそべなくなったけど、
ずっとぼくといっしょにいるんだ。
悲しかったけど、もうなみだは出なかった。

 



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松沢直樹
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1968/03/03
職業:
著述業
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冬眠
自己紹介:
沈没寸前のコピーライター ライターです。ヤフーではなぜか「小説家」のカテゴリにHPが登録されてますが、ぢっと手を見る日々が続いております。
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