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作家 松沢直樹のブログ
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キャッシング比較
ならくらべる君
  

小田原まででかけて昼飲み。駅前の天金という割烹へ。

昼時の混んでる時間なのに、とびこみでも快く二階の座敷にあげてもらって恐縮する。
(自分の名前を出して座敷を融通してもらったわけじゃないよ。そのままとびこみで入ったら快く通していただいたので、念のため)

ぽつぽつと降り出した雨を眺めながら、箱根湯本の温泉を使った湯豆腐や、小海老のかき揚げ、刺身を肴に、ぬる燗を傾ける。

魚が矢鱈うまかったと思ったら、箱根湯本ホテルさんの直営で、お店自体が漁船を持っていて、相模湾で取れた魚を毎日出してるのね。なるほどどうりで。

東京に戻る際、いただいたパンフレットを見て一人で納得。

さてさて、楽しい時間に区切りをつけて、再び都内へ戻ったら、ものすごい雨風になってびっくり。台風みたいだ。

仕事先で、取材の準備をしていたんだけど、結局雨のせいで延期になってしまった。

しかたがないので、深夜一人オフィスに残って自分の作品を書きながら、昼間の酒を思う。

楽しくておいしい時間はあっという間に過ぎるものだ。それにしても、小海老のかき揚げとぬる燗が美味だったなあ。お店のカウンターの白板にかかれた「まとうだい 刺身」というおしながきに、後ろ髪をひかれたことを思い出す。

うむむ。仕事が延期になるんだったら、もう少し時間を延ばして、お猪口かたむけながら、まとうだいをいただきたかった。

東京湾より外海に面している小田原で上がった魚の美味さは、書くまでもないが、この時期に旬を迎えるまとうだいの白身は、また格別のあじわいがある。

新鮮なものは、刺身にして肝を和えるのが一番。カワハギの肝和えとは違った、ほのかな甘味と、こくのある風味が楽しめる。

火を入れるとさらに濃厚な旨みが生まれるので、奉書焼きや蒸し物も捨てがたい。

せっかく日本酒を飲んだのだから、試してみたかったね。

まとうだいという魚は、俗にいうあやかり鯛(鯛とは名前が付くものの、真鯛とは違った魚)だ。

銀色の体の側面に、矢の的のような大きな斑紋があることから、的鯛と呼ばれるようになったとか、馬のような顔をしているから馬頭鯛と呼ばれるようになったとか、様々な由来が伝えられている。

名前の由来は定かではないけど、日本では海で取れたおいしい魚に「鯛」と名前を付けるようなきらいがあるから、要は日本各地で食べられてきた魚ってことなんでしょうね。

このまとうだい、日本だけではなくて、外国でも古くから食卓をにぎわしてきた魚でもある。

オーストラリアを中心にした英語圏では、Target dory とか John doryと呼ばれて、極めて珍重されているし、フランスではsaint-pierre(サン・ピエール)という、キリストの十二使徒の「聖ペテロ」の名前がつけられている。

実際、フランス料理でもよく使われる食材で、ワインで蒸したものやポアレ(バターやオリーブオイルで皮に焼き色をつけて焼き上げたもの)にしたり、日本でもおなじみのブイヤベースに使ったりする。

ちょっとした華やかな雰囲気の手の込んだ料理から、素材の持ち味を生かす豪快な漁師料理にまで広く使われているから、美味さから珍重されるようになった魚というのは、日本と同じようだ。

それにしても、このまとうだい、なんでキリスト様のお弟子さんの名前がついてるのかね。
調べてみると、どうやら聖書のエピソード(マタイ伝)に由来するらしい。

漁師であったキリストの弟子であるペテロが、キリストとともに、カベナウムという街に来た時、神殿に納める税金を徴収されそうになった。

キリストは漁師だったペテロに「海で釣り針をたれると、最初につれた魚の口から銀貨が一枚みつかるから、それをおさめなさい」と伝えるのだけど、預言の通り、ペテロが釣った魚の口から銀貨が見つかったらしい。

その魚が「まとうだい」で、聖ペテロがまとうだいを手にした跡が、まとうだいの体の横にある大きな斑紋になったのだと、フランスをはじめとしたヨーロッパでは言われているらしい。ほんとかな? 聖書のその部分を引用してみませう。

彼らがカペナウムにきたとき、宮の納入金を集める人たちがペテロのところにきて言った、「あなたがたの先生は宮の納入金を納めないのか」。
 ペテロは「納めておられます」と言った。そして彼が家にはいると、イエスから先に話しかけて言われた、「シモン、あなたはどう思うか。この世の王たちは税や貢をだれから取るのか。自分の子からか、それとも、ほかの人たちからか」。
 ペテロが「ほかの人たちからです」と答えると、イエスは言われた、「それでは、子は納めなくてもよいわけである。しかし、彼らをつまずかせないために、海に行って、つり針をたれなさい。そして最初につれた魚をとって、その口をあけると、銀貨一枚が見つかるであろう。それをとり出して、わたしとあなたのために納めなさい」。


----日本聖書協会 新約聖書 1954年改訳版 マタイによる福音書17章24-27より引用-----

実際のところ、キリストの弟子であるペテロが釣りをしたのは、イスラエルにある真水をたたえた「ガリラヤ湖」なので、海水魚であるまとうだいが釣れることはない。

おそらく、ペテロが釣りあげたのは、川底の石を口にする習性のある淡水魚の「ティラピア(泉鯛とも言われて、日本でも養殖されている)」だろう。

ティラピアは、卵から返った稚魚を口の中で育てる習性があり、子育てが終わる時期になると、口に異物を含んで稚魚が口の中にもぐりこむのを防ぐ習性も持っている。
おそらくペテロが釣り上げたティラピアは、湖底に沈んだ銀貨を口にしていたのだろうね

それがまたどういったいきさつで、海に住むまとうだいが、聖ペテロの名前を冠するようになったのかは、残念ながらはっきりしていない。

ラテン語では、ギリシャ神話の最高神「ゼウス」の名前がつけられているから(ラテン語の学名ではゼウス・ファベルという)キリストが生きた時代にイスラエルを治めていた海洋国のローマ人が、キリストとペテロのエピソードを伝えるうちに、聖ペテロのエピソードにでてくる魚が、淡水魚のティラピアから、まとうだいに変わったんじゃないかな。

逆にいうと、ローマの時代から、食卓をにぎわすほどおいしい魚として親しまれてきたんだろうね。いわば西洋版の「あやかり鯛」というところだろうか。

日本では、「あやかり鯛」というと、うまい魚ではあるけど、鯛のような一流にはなれない魚といった意地悪な意味合いがある。

実際、まとうだいは、鯛のような見栄えのする魚ではないけど、美味さという点で言えば、濃厚な旨みを放つ光る個性を持っている。

自分も、そうありたいものです。

そして願わくば、自分の紡ぐ文章が、まとうだいのような個性のある旨みを醸して、聖ペテロの魚のように、銀貨を連れてきてくれる文章になりますように
(これをご覧の媒体様、メディア様、原稿の執筆依頼・取材依頼お待ちしております)

ああああ……せっかく真面目なお話が、急に俗っぽい話になってしまった。まあいいや。

桜の咲く頃までにはまた旨みがますだろうから、今度はまとうだいを肴に一杯いただきたいですな。頑張りましょう。

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松沢直樹
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1968/03/03
職業:
著述業
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冬眠
自己紹介:
沈没寸前のコピーライター ライターです。ヤフーではなぜか「小説家」のカテゴリにHPが登録されてますが、ぢっと手を見る日々が続いております。
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