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作家 松沢直樹のブログ
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広島の方にお聞きして知ったのだが、、
彼の地では、我が故郷「北九州・福岡」ではなじみぶかい「ごぼう天うどん」がないらしい。

福岡・北九州の方は説明するまでもないだろうが、他の地域にお住まいの方のために少々説明を。

「ごぼう天うどん」とは、ささがきにしたごぼうをかき揚げにしたものを乗せたうどんのことです。(地域によって少々スタイルが異なるようですが)

博多といえば、ラーメンがすっかり全国区になった。
ところが、うどんも同じくらい地元で食べられていることは、あまり知られていないようだ。

はっきりとは分からないが、少なくとも博多ラーメンが広く食べられるようになったのは戦後のことらしい。

(博多ラーメンの起源は、「福岡の南部の街・久留米起源説」「台湾から引き揚げてきた方が創作したレシピ」など諸説あるが、白濁したスープが特徴であることを見ると、戦前日本が植民地化していた台湾か、大陸料理がベースになっているのではないだろうか)

それに対して、うどんは、それより以前から博多の人たちに、好まれていたようだ。

福岡出身の作家「夢野久作」が、1928年に発表した「斜坑」という作品に、「下の町の饂飩(うどん)屋に住み込んだ」という一節ががある。
これらを見ると、おそらくうどんの方が、古くから博多の人に親しまれてきたと思われる。

(「斜坑」では、舞台になった町が明記されていない。だが、登場人物の会話などから、おそらく炭鉱が多かった福岡の筑豊地区あたりをモデルにしたのではないだろうか。)

福岡のうどんは、コシの強い四国の讃岐うどんや、秋田の稲庭うどんとは違って、やわらかく茹で上げた麺が好まれる傾向がある。

15年ほど前になるだろうか。
東京ではじめて讃岐うどんを食べた時、経験したことのない麺のコシの強さに、「生煮えやないか~!」と内心毒づいたことがある。

はなはだ失礼な話だが、「讃岐うどんブーム」なるものが起こるはるか前のことだし、当時は東京とはいえ、全国の名物を、ご当地以外で口にする機会が少なかった。

すっかり身体になじんだ食味を越える、新しい食感を理解できなかったのも仕方ないのかもしれない。

現在では、宅配便やネットが普及したおかげで、日本全国、はては世界中の食材や料理を楽しめるようになった。

「食」のグローバル化(?)が進むのは、時代の流れなのだろうが、反面、特定の地域にどっしりと腰をすえながら、なおかつ地域の人たちに愛され続ける料理もある。

冒頭でお話した「ごぼう天うどん」もそうだろう。

この「ごぼう天うどん」、不思議なことに、大分などの陸続きの地域には広がりを見せながら、わずか1キロメートルにも満たない関門海峡を越えて、山口県に入ると、どういうわけか、扱われる店が極端に減っている。

僕が調べた限りでは、山口県の岩国市より東では、ほとんど食べられていないようだ。(30年前は、海峡を越えてすぐの下関でも、ほとんど見かけることがなかったような覚えがある)

これと同じような現象が、日本のあちこちでも見られるようだ。

たとえば、神奈川でよく食べられている「サンマー麺」というラーメンがある。炒めたもやしをあんかけにしたものだが、この料理も、ごぼう天うどんと同じく、多摩川を越えて東京都に入ると、扱われている店が極端に減ってしまう。

神奈川と東京は、一日の間に下手すると百万単位の人が行き交っていて、地域文化が空洞化していくように見えるが、このような食文化が根強く残っているのは興味深い。

太古の時代、神道から由来した産土神(うぶすなのかみ)と呼ばれる土地由来の神が信じられていた時代があったそうだ。

人々は、自分たちの暮らす土地から生まれた食物が、自分たちの体に入り、生命を養うことを、産土神と契りを結び、神の力を体に「乞う」神聖な行為と考えたらしい。

(日本語の恋という言葉は、相手の心を自分のものにするという意味から来ており、もともとは食事をしたり、祈りをささげることで、神の力を自分の肉体と精神に「乞う(自分のものにする)」という考えから来ているようだ)

そんなことなど、もはや信じる人は誰もいない時代になった。

だが、「ごぼう天うどん」や「サンマー麺」のように、ある土地にしっかり根を下ろして、人々に愛され続ける料理には、何かがあるように思える。

ひょっとすると、形を変えた産土神が、料理の中に宿り続けて、その土地に住む人に力を与え続けているのかもしれない。

なんてこと書くと、すごくまともに見えるばってん、要はうまいもの食べたいだけやったりして……

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プロフィール
HN:
松沢直樹
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1968/03/03
職業:
著述業
趣味:
冬眠
自己紹介:
沈没寸前のコピーライター ライターです。ヤフーではなぜか「小説家」のカテゴリにHPが登録されてますが、ぢっと手を見る日々が続いております。
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